自主練なのに高度な技
よい子はマネしないでね、と注意書きテロップが流れそうな高度な技が次々と間近で見られる機会はそうそうないものです。この度、手入れが分からない素人が集まって、盆栽歴20年のエキスパートを招聘して盆栽サークル活動を行ってみました。
▼エキスパートは真ん中で指さしアドバイスされている方
【素人のお困りポイント】
基本盆栽は毎日水やりしているだけで大丈夫なので、初心者でも簡単に育てることができるのですが、枝ぶりを整えてカッコよくしたいとなると、それなりに手入れをする必要があります。盆栽を買ったはいいが樹形を整えるとなると、途端に壁にぶち当たってしまいます。買った時は綺麗に整っていたのに~(私はイマココ)
分かりやすい盆栽の手入れの本が色々出ていますが、樹種毎の基本の手入れ紹介が多いようです。当たり前ですけど。実際には、その木の個性をどう生かすかということになり、自ずと一本一本違った手入れになるのです。
【素材だけはいい感じ】
盆栽を見て触って教えていただいて、まだ盆栽アカデミー初級コースを終わっただけですが、自分なりにいいなぁと思うような視点ができてきました。これは好みもあるので個人差があるでしょう。タイミング良く、私は念願の糸魚川真柏(いといがわしんぱく)の苗を入手しました。しかし、ボサボサに伸びた枝をどうやって手入れしたら良いのか皆目見当もつかなかったので、これは良い機会だと盆栽エキスパートにこの素材でデモをお願いしました。
【ジンづくり】
真柏といえば、ジンシャリというくらい特徴的な白い枝や幹ですが、これは人為的に作ります。うわー、樹皮を剥いてしまうなんてかわいそうーという心の声も聞こえてきますが、何も木全体を枯らしてしまうわけではなく、全体を美しいバランスで仕上げるよう、イメージして作るのです。盆栽はかなり小さな鉢の中で少ない土という過酷な環境で育てますが、美味しいトマトを作るとき、実を予め選別して間引いて甘さを実に凝縮させるためにあえて水やりを制限する、という人為的な作業と似ています。
真柏ちゃんのジンづくりでは、樹皮が必要以上に剥けてしまわないよう、予め切り込みをぐるりと入れておき、やっとこというペンチのような用具で先端から割いてはぎ取っていきます。でもやっぱり痛そう~ごめんね!!
【かんぴょう?】
いいえ、ラフィアです。ヤシの葉が材料で様々な用途に使われていますが、盆栽分野でお会いするのは初めてです。ここでは、強く曲げたい枝の樹皮が痛まないよう、予め保護するために巻いておくテーピングのように使います。
ラフィアを予め15分くらい水に浸して柔らかくしておきます。そして、隙間ができないようにしっかりと枝に巻き付けていき、最後は縛って止めます。
まるで自分がプロになったような解説ですが、エキスパートのデモをそのまま書いているだけです。剥いちゃうばかりではなく、きちんと保護もしております~
【扱いが難しい銅線もなんのその】
枝が太いので、この日のために太めの銅線を得意のネット販売でポチして入手しておきました。(盆栽用の銅線ってホームセンターでは売っていないんですよ。少なくとも私が覗いたいくつかの店舗では)硬くて扱いづらいので、通常初心者はアルミ線で針金掛けを行いますが、エキスパートは楽々太い銅線を巻いていきます。
最初にどこからかけるか、、これがポイントなのですが、紙面上割愛します。(解説が難しいので放棄しているだけです。すみません。いつか解説できる日がくるといいなぁ。)
【エキスパートは道具の着眼点も素人離れ】
なんでもあるものを利用する達人さんは、盆栽の針金掛けで木が痛まないように工夫もあれこれ考えます。
新たな技は、針金を掛けた枝をさらに大きく曲げるとき、幹に掛ける針金で木が痛まないよう、針金をゴムチューブに通し、針金を養生して使います。このゴムチューブはなんと金魚の水槽で空気の循環に使うホースだそうです。この発想力がすごいです!そして、この細い針金の両側は既に枝に掛かっている針金に通し、直接幹や枝に針金が食い込むような一点集中のきつい圧力がかからないようにしているのです。これってかなり高度な技です。こんな高度な技を間近で見る機会はないので、私たちはかぶりつきです。
【半端ないビフォーアフター】
これが、素材のビフォーアフターです。いやいや、あんなにボサボサでどこをどうやったらよいのか素人には恐ろしくて迂闊に手を出せないものが、エキスパートの手入れでこんなにまとまりました。
とはいえ、まだまだ途中です。一度に多くの作業をすると木に無理がかかり、枯れてしまう恐れがあるため、何年もかけて少しずつ改良を加えていくのです。
そんなわけで、小さくても盆栽は値段が高いものが出てくることになります。世に言う「付加価値」というものですね。いつになったらこんな手入れができるようになるんでしょう。。遠い目。
【身の丈にあった練習】
エキスパートの高度なデモを見た後は、素人が失敗しても悔やまないもので針金掛けトライです。ポットの赤松苗にアルミ線を差し込み、針金が浮かないように45度の角度で巻いていきます。
何人かで同じ作業をしたのですが、皆それぞれ違った掛け方になり、こんなことでも個性がでるものかと面白い発見でした。そして、将来の姿をイメージして針金と共に苗を曲げていきますが、これまたどんな形に曲げたらよいのか分からない。。情けないのですが、結局最後はエキスパートに手直しをお願いし、どうにかまともな文人(ぶんじん)の姿に仕立てられました。素人との腕の差は歴然です。参りました!
【再生可能】
さて、真柏のボサボサ苗のデモンストレーションで切り落とした枝、無駄にしませんよー。切った後は水につけておきます。その後、切り口をカッターで斜めに切り、反対側も少し斜めに切り、マイナスドライバーの先端のような形にします。そうすることで断面積が大きくなり、水を吸い上げる力がより働くことになるのです。ここも「へぇー」ポイントですね。私は「ルートン」という発根剤をつけて赤玉土の上に挿し穂の土を入れた土鉢に割りばしで穴を開けたところにそっと1本ずつ挿してみました。
できれば挿し穂も9月~10月頃が時期的に良いようですが、今回11月中旬に行ったので、どれだけついてくれるか。。分身を増やすのじゃー!!
【エキスパートのお道具】
今回デモを見せて、私たちにアドバイスしてくださったエキスパートの方のお道具は、道具箱から少し出しただけでもこんなにありました。盆栽の道具ってなんでこんなに色々あるのか不思議ですが、用途があってこれだけ種類も増えるんでしょうね。まるで、伝統技能の職人さんが持っている「ノミだけで何十本」というイメージです。カメラの世界のレンズ沼だけでなく、この世界も沼がありそうです。